・スサの色が残る白・
原石は徳利状の窯に投入され、工業塩を混入し石炭で焼成されます。他県が海藻などノリを使用する事に対して藁(わら)スサを使用します。土佐漆喰は、使用場所や左官職人の技法内容によって、単価(予算)や施工程度は異なってきます。瓦の下地や倉庫の壁、押入(おしいれ)の壁・水切瓦(みずきりがわら)や破風(はふ)や妻(つま)の格子、和室・洋間の壁等その用途は広範です。
施工領域が広範の土佐漆喰は、大きな「癖」を持っています。その「癖」は自然現象と深く関わり、左官職人は温度・湿度・雨・風の度合いを相手に鏝(こて)の技を仕掛けていくことになります。施工に当たり、「壁表面を指で押してアトが付かない程度おく」・・・このような独自の基準中で、次の工程時期を決断して仕事を進めます。
それらは数値的な計測を超越した、経験による職人の勘(かん)の技と言えるものです。例えば大工職人が、チョウナを丸木に打ち込み、魚の鱗のような形を残した化粧としての技法があります。それも「勘」における技法です。「勘」は、その時の現場の流れの中で瞬間に身体が感じるものであるため、言葉にして説明のつかない物が含まれているのです。
こうした工程を積み上げて、鏡面(きょうめん)仕上げ『光る壁』は完成します。白い壁と言われる土佐漆喰の壁表面は純白ではなく、製造工程で混入される藁(わら)スサの影響から、淡黄色(クリーム色)が残ります。元は石と稲藁が壁素材になり、壁の程度の中に人の姿が移る極上の鏝技があることも、土佐の自慢になる事です。
・日本一と評される壁・
目に優しく素朴な風合いと評され、「赤ちゃんのお尻」のような感触があります。きめ細かく、少々冷たさを感じさせるが、奥底に温かい血流のようなものを感じ取れます。人々は土佐漆喰を評して「日本一の壁素材」と言う言葉も聞くことがあります。日本一といわれる壁完成には、伝統工法を継承した左官職人の知恵と技が不可欠です。
高知県には多くの土蔵が現存します。それらは、明治から大正にかけて建築された物が多く、当時施主たちは百年の計画を持って建築したと言われています。土蔵は用途や機能に加え、蔵を持つことによって地域での存在を高めるという役目ももっていました。
職人たちはそうした施主の思いを受けて、耐久性能と美観を重視して持てる技を打ち込んできました。壁の磨きには鏝の技と共に、雲母や手ごすりや椿の若葉等を用いて、表面仕上を行っていた事等を聞いています。それらは、求める施主が居たから造ることができました。施主は現場の監督のように厳しかったのですが、技に生きる者として腕前を示す「機会」を与えられた良き時代でもありました。
・製法と壁工法の情報発信・
このHPは昭和からこんにちまで、その道一筋に打ち込みながら現場を語る事の少なかった職人の知恵と技と、明治から昭和に建築された土佐漆喰の建築物を取り上げて解説をしています。
筆者は昭和46年から県東部に移り、建築現場の調査・取材を行ってきました。取材に応じて頂いた職人は、現場経験に「自分流」の工夫を加え、土佐漆喰の仕上げ程度「美観や雨仕舞」を高めてきました。現場の今を取材の対象としてこだわったのは、現場に立ち工具を持ち、壁を造る職人である事でした。古建築当時の現場取材のためには、現役を退いた元職人の皆さんにも取材をさせて頂きました。
また石灰岩を窯で焼き、塩をふりかけ石炭で焼く人、「灰焼き職人」やスサの発酵や練り場・袋詰めの各工程と仕事内容と「腕前」について、写真や映像の撮影を行っています。撮影データは動画編集を行っています。(一部HP・トップページに1分〜3分程度でリンクしています)
使用している写真には不鮮明な物が多いが、昭和終わり頃のVHSビデオから、静止画として取り出したものです。HPは平成8年頃から制作してきたもので、建築職人や土佐漆喰に関心のある方に役立てばと情報発信をしてきました。
昭和30年代からの取材に、現場関係者の皆様に協力を頂きました。
・技を育てた施主の存在・
昔、住宅の平面計画に田の字型とトンボ型があり、間取りを考える基本とされていました。時代の流れや生活様式が変わり、住まいの型は変化をしてきたが、地域によって壁を土佐漆喰で造るという外壁への思いは今も根強く残っています。町並みに行くと、日本瓦に土佐漆喰の壁と水切瓦の民家が現存しています。特に水切瓦については、ふる里の象徴と聞きました。
土佐漆喰は左官職人が技法を高めてきたのだが、左官職人の高い技法や土佐漆喰をより確かな素材にしてきた要因の中には、職人を信頼して必要要求を受け入れた、地域の施主であったともいえます。施主は職人の腕前を示す現場を与えたのです。
土佐漆喰の伝統技法が継承されているのは、土佐漆喰を求める施主がいるからであると考えなくてはなりません。土佐漆喰を語るなら、施主たちの存在を見逃してはならないと思っています。
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